2007/03/03

灰溶融炉の不都合な真実:最近のニュースより

米元副大統領アル・ゴアーの「不都合な真実」と言う地球温暖化の脅威を訴えるドキュメンタリー映画がアカデミー賞も取り、話題になっている。灰を溶融するために必要な、莫大な燃料の量と、それを燃やす事で発生する多量の二酸化炭素を考えると、灰熔融炉も地球温暖化に大いに加担する施設だと言える。しかし他にも、溶融施設にまつわる数々の「不都合な真実」がある。最近のニュースから、そのいくつかを拾った。
まず、スラグの安全性を疑っているのは私たちだけではないようだ...

1月26日 毎日新聞
 宇都宮市大谷地区の採石場廃坑を、ごみ焼却灰を固めた「溶融スラグ」で埋め戻す特区申請計画について、佐藤栄一市長は25日の会見で、今後は大谷地区全6自治会の同意という申請条件を変更する意向を示した。
 特区申請は、今回を含め計9回見送られてきたが、いずれもスラグの安全性への不安などから複数の地元自治会が反対決議したため。佐藤市長は会見で「今ま でのルールでは、何度やっても申請が出来なかった。今後は、合意形成のあり方も検討したい」と述べ、来年度以降、全自治会の同意獲得とは別の方法で、同地 区の合意形成を図る可能性を示唆した。また、今月中が期限だった国への特区申請について、正式に見送ったことも明らかにした。


スラグはJIS規格ができても、その規格は酸性雨と言う現状を無視した、売り手側を最優先したもので、安全性を保障するものではない。この「不都合な事実」が多くの住民に知り渡っているため、スラグは売れない。売れないから、置く場所が必要で、宇都宮市のような自治体は商売にしようと思って特区申請をしたりするが、そこで案の定、その「不都合な真実」を知っている住民は反対する。
スラグの規格を今よりずっと安全なものにしない限り、これからも売れる可能性は薄いし、使ったところで反対運動が起こるだろう。が、今稼動している溶融炉では、重金属を取り除いた安全なスラグはできない。困ったもんだ。
それにしても、宇都宮市の佐藤市長はひょっとするとスラグよりも怖い存在かも、と思いませんか?
安全性とは別に、溶融炉がどれだけの金食い虫、そして行政が時々どれだけの判断ミスを犯すかを知りたい方は岸和田市、貝塚市の例をどうぞ:
岸和田市・貝塚市が「ごみ処理施設『勘違い』で53億円の負担増
しかし益々笑っていられないのは埼玉県寄居町にある「彩の国資源循環工場」での最近の出来事。

まず、住民との公害防止協定がきちんと守られていたらとっくに明るみに出てはずの、環境基準値の27倍の鉛検出。2月2日に明らかになったが、検出されたのはなんと去年の8月!ちなみに原因はその業者オリックス資源循環が「安心施設」と歌っているガス化溶融施設だった。(業者の言い分はここ。県の調査結果はここ
これを読めば分かるのは、溶かした焼却灰を冷やし固形化するため施設内を循環する水が、取り除かれずにその固形物(スラグ)と一緒に外部に漏れていた。同工場は我が組合でも歌っている、排水を外部に漏らさない「クローズドシステム」を採用しているが、あまりにも初歩的なミスで開いた口がふさがらない。業者オリックス資源循環に委託でプラントを操業しているのはJFE環境ソリューションズと言う、JFEグループの子会社。日本の先端技術を代表するような膨大な企業の傘下にある業者が重金属流出の可能性を事前に見破らなかったわけで、お粗末過ぎる事態だ。県は県で、調査をした結果、鉛が敷地外に流出した可能性は少ないという事で付近住民全員には特に知らせず、住民代表の環境監視員や寄居町に知らせただけだった。どうも情報公開体制こそが、なるべく「不都合な真実」を外部に漏らさない「クローズドシステム」のようだ。
この点に関して環境政策シンクタンク「環境総合研究所」の池田こみち副所長は「工場排水が工場外に出ないという『クローズドシステム』の破たんが明らかになった。先進的なモニタリングシステムでも、数値を“身内”でみて、都合よく評価していては意味がない。第三者機関が評価して、是正を求める体制が必要だ」と言っている。
オリックス資源循環の田中勝文社長は「せっかく事業機会を与えてくれた住民に申し訳なく深く反省している。今後は再発防止に努める」としている。
数日後、新たに基準の6.1倍のダイオキシンと5倍のホウ素が検出されていたことが分かった。埼玉県は1月25日までにこの事実を把握していたが、2月7日に開かれた、周辺住民で組織する監視員全体会で説明するまで、公表していなかった。ダイオキシンに関しては原因がまだ確定できていないようだ。
7日の説明会で 監視員らは「鉛の流出元が特定された昨年十月に、なぜ施設操業を停止しなかったのか。地元との協定書違反だ」と県を追及したところ、県は「(今回と同じような問題があった場合)間違いなく操業停止にする」と明言し、協定違反があったことを認めたそうだが、信用できるだろうか。
不正が何回ばれてもデータの隠蔽や改ざんを繰り返してきた原発業界と同じ体質ではないだろうか。「不都合な真実」は自らなかなか出したがらない。まず隠す事を考える。埼玉県は所沢のダイオキシン汚染の発覚から、全国で一番厳しい環境基準を設けているし、「彩の国資源循環工場」は最新の技術の集合体のはずだが、こんな有様だ。
しかも鉛やダイオキシンだけではない。同じ敷地の中の灰溶融施設では1月24四日に煙突から通常の6倍のカドミウム、六価クロムなどが流出していたことが2月22日分かった。この記事を読んで思ったことは(1)重金属を高濃度で含んだ煙が空中に放出されたのに、なんで「工場外には出ていない」と断定できるだろうか?そして(2)国は排ガス中の重金属について基準を設けていないが、この一件で分かったのは、「通常2時間で排出される成分が20分で出た」と言う事から、普段から灰熔融炉からたくさんの重金属が気化して排出されていると言う事。
私たちは前から、なんで重金属について基準を設けないかと公開質問状でも組合に問っているが、組合は「これまで4回開催しました住民説明会においてご説明させていただいております公害防止自主基準並びに国が定める各種基準を遵守してまいります。」と、全く取り合ってもらえなかった。国の基準がなくても、健康に深刻な被害をもたらす重金属は常に灰熔融炉の煙突から吐き出されていく。国の基準と言うのはその程度のものだ、と改めて思わせた記事だった。これも組合にとってもう一つの「不都合な真実」で、これからも、他の数々の不都合な真実と一緒にして隠し通そうとするに違いない。
彩の国資源循環工場は去年稼動を開始したばかりの最新施設。なのに、表に出たものだけで鉛やダイオキシン、カドミウム、六価クロムを吐き出している。きっと寄居町の住民も、私たちと同じように、計画段階の説明会などで「安全な施設を作るから心配は要らない」と言われてきたに違いない。その住民は今、約束された安全・安心、そして約束された情報公開がどれだけはかないものかを、身をもって知るようになったようだ。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

色々な情報ありがとうございます。灰溶融炉は、もう終わってますねえ…。古いセリフですが、「お前はもう死んでいる」という感じです。こんなに、デメリットばかりの施設に、組合などの行政は、なぜいまだに固執するのでしょうか?素朴な疑問です。一般市民にはわからない、裏の事情があるのでしょうね、きっと。灰溶融炉を作ることによって、メリットを得る一部の人がいるという、裏の力が働いているとおっしゃる方がおられますが、本当にそんな気がしてきます。そうでなければ、ここまで固執しないでしょうね。このような日本の政治の仕組みは、やはり変えていかなければならないでしょう。最近、強く思っております。